特例子会社の社長奮闘記(編集後記 – 障害を治療する未来)

特例子会社の社長奮闘記

特例子会社の社長奮闘記(編集後記 – 障害を治療する未来)

はじめに

第1〜9回の「特例子会社の社長奮闘記」を改めて読み返しました。文字で伝えられる限り、私自身が持っている知見やノウハウの表出化はできたと思います。今回は、特例子会社グリービジネスオペレーションズ(以下、GBO)の代表を辞任して10ヶ月が経過した今、私が考えていることを書きました。

このシリーズを初めてみるという方は以下の記事を先にご覧いただくことをオススメします!

人事経験ゼロのマーケターが取り組んだ障害者雇用📌
人事経験ゼロのマーケターが取り組んだ障害者雇用。発達障害者の雇用と戦力化、そして特例子会社の代表として取り組んだことを「特例子会社の社長奮闘記」として残していきたいと思います。本記事では前提と全体構成について書きました。

2013〜2020年が特別な理由

私が特例子会社の代表として発達障害者の雇用・戦力化に取り組んだのは2013年から2020年。もちろん、私より長い期間、発達障害者の雇用に取り組んでいる方、今も現役で取り組んでいる方はおられます。ただ、私が代表をしていた7年間、発達障害者雇用の世界は激動の時代であったと思います。

法制度の変化

2010年に障害者自立支援法が改正され、精神障害者の中に発達障害者が含まれると明記されました。そこから2016年の改正発達障害者支援法成立までの経緯は以下の通りです。

  • 2010年:障害者自立支援法、児童福祉法にて発達障害を位置づけ
  • 2011年:障害者基本法、障害者虐待防止法にて発達障害を位置づけ
  • 2011年:精神保健福祉士手帳、障害者基礎年金、特別児童扶養手当の申請基準にて発達障害を位置づけ
  • 2012年:障害者優先調達推進法にて発達障害を位置づけ
  • 2013年:障害者雇用促進法、障害者差別解消法にて発達障害を位置づけ
  • 2016年:改正発達障害者支援法成立

まさに、2010年代の前半で一気に法整備が進んだ形です。言い換えれば、それまでは3つの障害(身体・知的・精神)のどれにも属さない第4の障害として「発達障害」あいまいな位置づけだったと言えます。

雇用状況の変化

様々な法改正に伴い、障害者雇用環境も大きく変化しています。企業に雇用義務が課せられたのは1976年で、当時の法定雇用率は1.5%。法定雇用率の計算の対象となる障害者は身体障害者のみでしたが、その後、1998年に知的障害者が加えられ、2018年に精神障害者も加わりました。

以下は、2010〜2020年までの精神障害者の職業紹介状況の数字です(出典:令和2年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などの取りまとめ

※発達障害の場合、知的に遅れがない場合は「精神障害者保健福祉手帳(精神障害者)」を、知的に遅れのある発達障害の人は「療育手帳(知的障害者)」を取得することになっています。

新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、2020年こそ新規の求職申込と就職件数が減少していますが、求職者数は右肩上がりです。これはハロワークだけの集計なので、実際の求職者数はもっと多いはずです。

障害者雇用水増し問題

そんな2010年代の終盤に起きたのが2018年の「障害者雇用水増し問題」です。省庁及び地方自治体等の公的機関において、障害者に該当しない者を障害者として雇用し、障害者の雇用率が水増しされていました。皮肉にも、これがきっかけとなり、メディアでGBOを取り上げてもらう機会が急増しました。

障害者雇用水増し問題 - Wikipedia

2021年以降に取り組みたいこと

激動の2010年代、発達障害者の雇用に現場の責任者として関われたことは本当に価値ある経験でした。社員・同僚・社外の有識者の皆様など、一生モノの出会いもありましたが、2020年の12月末をもってGBOの代表を辞任しました。

なぜ辞任したのか

GBOの代表を辞任した翌年の3月、親会社であるグリーも辞め、国内の某製薬会社に転職しました。転職経験のある方ならわかると思いますが、転職の理由を一つに絞るのは難しいです。現状不満や魅力的なオファーだけでなく、新型コロナによって在宅が増えたり、働き方が多様化したことで動きやすかったのもあります。様々な要因がタイミングよく重なりました。

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障害者雇用の限界

企業による障害者雇用に限界があるとも考えていました。営利企業はその存続が大前提にあるので、法定雇用義務を超えて、赤字を掘り続けてまで障害者の雇用を拡大する動機は強くありません。SDGsを旗印に多くの企業が積極的に取り組んでいますし、ESG投資やその評価もあがってきていますが、それが「障害者の雇用拡大に寄与する」にはまだまだ時間がかかるというのが肌感です。

「生まれつきの障害」から「治療できる疾患」へ

明るい話題もあります。ここ数年、ADHDや自閉症スペクトラム(ASD)の治療薬が米国で承認されたというニュースが相次ぎました。「先天的に脳の一部の機能に障害があることが原因」とされてきた発達障害に「治療」という選択肢が出てきたのです。

米FDA、10年ぶりに子ども向けADHD治療薬を承認
米食品医薬品局(FDA)は4月2日、6~17歳の注意欠如・多動症(ADHD)患者の治療薬として、米Supernus Pharmaceuticals社が製造するQelbreeを承認したことを発表した。FDAによるADHD治療薬の承認は10年ぶりである。
ADHDの治療にビデオゲーム、米FDAが承認
米食品医薬品局(FDA)が注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもの治療のためのビデオゲームを初めて承認した。

また、鬱(うつ)や認知症など、ADHDや自閉症スペクトラム(ASD)と同じ精神疾患領域では、その創薬技術の進歩が目覚ましく「心の病」についてもっと俯瞰してみないと…と感じていました。

医学や薬学は素人ですが、20年のキャリアがあるインターネット業界、そして、激動の2010年代に発達障害者の雇用に取り組んできた経験を「より大きなスケールに発展させていきたい」、それが2021年以降に取り組みたいことです。

おわりに

「障害者雇用」はこれからも社会全体で取り組むべき課題であることは変わりません。一方で、「心の病」に悩む人々の生きづらさは「受け入れる側の社会の変容」だけでなく、「医療・創薬 × デジタル技術」が並行することでその解消が加速していく、それが2020年代です。これからは軸足を後者に移し、その両方に関わり続けていきたいと思っています。

特例子会社の社長奮闘記」だけではわからないことや、実際に現場を見てわかることもあるので、私にお手伝いできることがあればいつでもお問い合わせください。皆様、これからもどうぞよろしくお願いします!