特例子会社の社長奮闘記(1)

特例子会社の社長奮闘記

特例子会社の社長奮闘記(1)

はじめに

初回の本記事では「経営目標の設定」について書きたいと思います。

  1. 経営目標の設定(定量目標や企業ビジョン)
  2. 障害者雇用の基礎知識や他社の先行事例を把握
  3. 特例子会社についての現状把握(オフィス環境や人事制度、福利厚生等)
  4. 特例子会社で働く社員の現状把握
  5. 特例子会社で働く社員の課題抽出
  6. 特例子会社に仕事を発注してくれる本社及びグループ子会社の現状把握
  7. 特例子会社に仕事を発注してくれる本社及びグループ子会社の課題抽出
  8. 特例子会社の改善(合理的配慮の強化、社内制度の充実、採用、人材育成など)
  9. 改善された特例子会社のプロモーション(業務の受注拡大)

このシリーズを初めてみるという方は以下の記事を先にご覧いただくことをオススメします!

人事経験ゼロのマーケターが取り組んだ障害者雇用📌
人事経験ゼロのマーケターが取り組んだ障害者雇用。発達障害者の雇用と戦力化、そして特例子会社の代表として取り組んだことを「特例子会社の社長奮闘記」として残していきたいと思います。本記事では前提と全体構成について書きました。

過去記事の一覧はこちらから。

発達障害者を雇用する特例子会社の社長奮闘記
人事経験ゼロから取り組んだ発達障害者の雇用と戦力化。本職であるマーケティングの考え方を活かし、特例子会社の代表として取り組んだことを「特例子会社の社長奮闘記」として残していきたいと思います。

経営目標の設定

私が特例子会社の代表に就いてまず最初に考えたのが「経営目標の設定」です。この先に待ち受けているのが平坦な道のりであればいいですが、決してそうではないことは容易に想像できました。何事もゴールなくして推進力は維持できません。迷い悩んだときに皆の拠り所となる道標は必要です。そのために、以下の2種類の経営目標を設定することを決めました。

  • 定量目標
  • 企業ビジョン

定量目標

マーケティングの世界でよく使われる目標フレームワークが「SMAC」。以下の4つのポイントの頭文字をとった言葉です。

  • Specific(具体的な)
  • Measurable(測定可能な)
  • Achievable(達成可能)
  • Consistent(一貫性がある)

上記に沿って私が掲げた定量目標は以下の2つ。

  1. 法定雇用率を遵守する
  2. 事業部門からの受注比率を50%まで引き上げる

法定雇用率を遵守する

特例子会社として存在するための大前提。法定義務なので目標にするまでものですが、Specific(具体的な)且つ Measurable(測定可能な)な目標としてわかりやすいためあえて明文化しました。また、日本の障害者の法定雇用率は徐々に引き上げられてきた歴史があります。

  • 1976年(昭和51年)に義務化された当初の法定雇用率は1.57%
  • 1988年(昭和63年)に1.6%
  • 1998年(平成10年)に1.8%
  • 2013年(平成25年)には、民間企業が2.0%、国・地方公共団体などが2.3%
  • 2018年(平成30年)に民間企業で2.2%、国・地方公共団体などで2.5%

2021年4月よりさらに0.1%引き上げることが予定されており(昨今の新型コロナ情勢もあり見直される可能性もあります)、今後も上がっていくことはほぼ確実です。

法定雇用率は、以下の計算式で算出されるのですが、

自社の雇用率=(障害者である常時雇用労働者の数+障害者である短時間労働者の数×0.5)÷(常時雇用労働者の数+短時間労働者の数×0.5)

分母の数字は、企業全体の採用状況により刻々と変化します。企業の各部門は障害者の法定雇用率を意識して採用を進めるわけではないですし、採用予定を逐一教えてくれるわけでもありません。大きな企業であればあるほど、いつの間にか分母が大きくなり法定雇用率を下回っている…なんてことが起こりえます。

私が代表をしていた特例子会社グリービジネスオペレーションズ(以下、GBO)は、グループ全体で1,000人を超える企業でしたので、法定雇用率(2013年の代表就任当初は2.0%)に対して0.1% をプラスした雇用率を目標に設定してました。さらに、月に一度は本社の人事部門と連携し、分母となる数字をモニタリングするような経営管理も行っていました。

「法定雇用率を遵守する」というのは、当たり前過ぎて目標にするまでもないように思えます。ただ、あえて目標化することで常に意識するようになりました。目標化したことで「毎月モニタリングする」という運用が作られ、行政による法定雇用率の引き上げ情報に対しても感度を上げれたと思っています。

事業部門からの受注比率を50%まで引き上げる

以前も書いたのですが、持続可能な障害者雇用においては「本業から業務を切り出すこと」が非常に重要になります。詳しくは以下の記事もご覧ください。

障害者雇用の難課題「業務の切り出し」
障害者雇用の難課題「業務の切り出し」。特例子会社を通じて一定の成果をあげた経験から、持続可能な障害者雇用における「業務の切り出し」の重要さ、そしてそれを行うポイントについて書きました。ご興味ある方はぜひご覧ください。

特例子会社の代表に就任した当初は、人事部門や管理部門からの仕事が大部分をしめていました。そのため「本業である事業部門からの受注比率を50%にする」という目標を作りました。具体的にどのように進めたかは記事にしてく予定です。

具体的に測定可能であり、さらに達成可能な割合として受注比率を50%とし、グループ企業全体の収益に貢献するという子会社として一貫性のあった目標だと思っています。振り返って反省点があるとすれば、具体的な達成目標時期(例:●年以内に…等)を決めなかったことでしょうか。

企業ビジョン

企業ビジョンも新たに掲げました。詳しくは別の記事で書いているので、そちらもご覧ください!定量的な目標と違い、環境変化に強い普遍的な目標を持ちたいという意図で作りました。

「特例子会社だから」とか「障害者しかいない組織だから」ビジョンがなくてもいいということはありません。むしろ、組織の立ち上げ期は健常者だけの組織より自走力が落ちるので、全員が共感でき、そして自走力の源泉になるようなビジョンは絶対に必要。

障害者雇用に必要な組織づくりとは
障害者雇用に必要な組織づくりとは...。障害者雇用に必要なのは「共感性の高いビジョン」と「マネジメントの役割3つ」。本記事ではこの2点については詳しく書いています。ご興味ある方はぜひ御覧ください。

さいごに

これから特例子会社を設立したり、障害者雇用に取り組む企業のみなさんへ。まずは「目標」をしっかり作ってください。そしてその目標は「定量的な目標」と「企業ビジョン」の2種類作ってください。ここをしっかり議論して作っておくことが基礎になります。それは文字通り、組織を牽引する側と組織が働く障害者の双方にとって、揺るぎない土台になります。(次の記事を見る