発達障害者の障害者雇用の実態と工夫(2) 〜第69回発達支援力アップデートセミナー〜

障害者雇用

発達障害者の障害者雇用の実態と工夫(2)

はじめに

1月28日に行われた、こども発達支援研究会主催「第69回発達支援力アップデートセミナー 」。前回の記事で、講演資料と回答しきれなかった質問に対するコメントをまとめました。

講演後のアンケートにあった「本日の講師から『この話も聞きたい!」と思ったテーマは?…」にも、たくさんのご意見・ご質問いただきました。本記事ではそこからいくつかピックアップしてまとめました。数が多いので前編と後編に分けてます。

前回記事はこちら。

発達障害者の障害者雇用の実態と工夫(1) 〜第69回発達支援力アップデートセミナー〜
発達障害者の障害者雇用の実態と工夫について。2023年1月28日に行われた第69回発達支援力アップデートセミナーの登壇資料と、時間切れで回答しきれなかった質問へのコメントをまとめました。ご興味ある方はぜひご覧ください。

講演後のアンケートより(前編)

高校以降の学校の就職担当者との連携、障がいが判明した幼少期からどのような就労への意識づけをしていったらよいか親・教育・福祉等へのアドバイス(そういうシステム等がありましたら教えてください)

凸凹のある子どもたちこそ、夢中になれること・熱中できることがあるはずです。それを持っていることが、社会に出ていく上で大きな強みになります。スマホやSNSのような情報ツールをフル活用し、そんな「夢中」を一緒に探してあげてください。ひいてはそれが本人の自己肯定感にもつながります。

今できないことも、今続けられないことも、何か別のことで自信がつけば変わります。講演の中で紹介した信州大学の本田秀夫先生のおっしゃっていた「本人がどうやってモチベーションを保ちながら社会に出ていくか、それを保障する最低限の条件が“好きなこと”なんです」これに尽きると思っています。

本田秀夫さんと考える 発達障害の子育ては“好き”を大切に - 記事 | NHK ハートネット
発達障害のいろいろな特性がある子どもたち。育て方も多種多様ですが、“好き”を大切にすることでうまくいったり、二次障害を予防する可能性もあります。特技や夢中なことに取り組む様子を見守り、嫌なことを無理強いしないなど、その方法はさまざま。今回は、“好き”を大切にした子育てを実践する3組の保護者と信州大学医学部教授・本田秀夫...

より体系的な情報であれば、経済産業省が2022年5月に発表した「未来人材ビジョン」がおすすめです。

2030年、2050年の未来を見据え、「旧来の日本型雇用システムからの転換」と「好きなことに夢中になれる教育への転換」を! (METI/経済産業省)
経済産業省は、2030年、2050年の産業構造の転換を見据えた、今後の人材政策について検討するため、「未来人材会議」を設置し、雇用・人材育成から教育システムに至る政策課題について一体的に議論をしてきました。 その内容を踏まえ、未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、今後取り組むべき具体策を示すものとして、...

地方でももっと特例子会社を作る構想などないか?

特例子会社という制度が、大企業が障害者雇用をしやすくなる(=法定雇用率を達成しやすくなる)ことを目的に設計されているので、大企業が少なく採用活動も難しい地方では、積極的に特例子会社を作る理由がありません。ただ、テレワークがもっと浸透すれば、首都圏に本社を置く大企業が、コストの観点で地方に特例子会社を構えることは十分に考えられると思います。

企業の障害者雇用に対する姿勢をアップデートしていくために、福祉や医療サイドからは何かできることはあるでしょうか?

私がこのブログにまとめていたり、講演で話したような経験・ノウハウを多くの企業に広めてください! 「発達障害者の雇用は無理だろう」という先入観を排除しなければ、企業の価値観はなかなか変わりません。

特例子会社の仕事で困った話、助かった話。 / 発達障害の方を雇用する上で困ったこと、また関りや環境を変えていくことで困ったことがありましたら教えていただきたいです。

先行事例やノウハウがあまりなかったことです。そのため、採用から定着、制度づくりまですべてに困りました。数少ない情報や、支援員の方のアドバイスをベースにしながらも試行錯誤の繰り返しです。こちらの記事が参考になるかと思います。

特例子会社の社長奮闘記(5)
5回目の記事「特例子会社で働く社員の課題抽出」について書きました。人事経験ゼロから取り組んだ発達障害者の雇用と戦力化。本職であるマーケティングの考え方を活かし、特例子会社の代表として取り組んだことを「特例子会社の社長奮闘記」として残していきたいと思います。

採用後、継続して働ける環境づくり

以下の記事にまとめています。ぜひご一読ください。

特例子会社の社長奮闘記(8)
8回目の記事「特例子会社の改善(合理的配慮の強化、社内制度の充実、採用、人材育成など)」について書きました。人事経験ゼロから取り組んだ発達障害者の雇用と戦力化。本職であるマーケティングの考え方を活かし、特例子会社の代表として取り組んだことを「特例子会社の社長奮闘記」として残していきたいと思います。

障がい者自身のキャリアアップについて

多くはないですが、グリービジネスオペレーションズで働いていた社員の中には、他社の一般雇用にキャリアアップした方もいました。また、障害者雇用のままで正社員に登用された方もいます。健常者と比べてまだまだ選択肢が少ないのは確かですが、障害者だからといってキャリアの幅が極端にせまくなるといったことはないと思います。

発達障害者の障害特性について、企業側の視点で聞きたいです。 / 就労移行支援事業所からの採用基準や、企業側の求める人材についてもう少し詳しく知りたいと思いました。

企業にとって障害特性がどう見えるかは一概には言えません。その企業の業種や求める人物像によって異なるからです。それを大前提として、私が最終面接で見ていたことは以下の記事にまとめています。

特例子会社の採用面接では何を見ているのか
障害者を雇用する特例子会社の面接では何をみているのか。この記事では、特例子会社の代表として最終面接に関わる上で見ているポイントについて紹介しています。ご興味ある方はぜひご覧ください。

障害者雇用はこの先も永続するのか

SDGsに代表されるように、グローバルトレンドは「誰ひとり取り残さない持続可能な社会」です。障害者も含め、すべての人にとって「生きづらくない社会」を目指しています。それを実現するための手段として「障害者雇用」という枠組み(法定雇用義務)がどうあるべきかは議論の分かれるところです。

ただ「障害を持った方に雇用機会を与えなくていい」みたいな乱暴な方向に向かうことはないでしょう。だからこそ、当事者側も法定雇用義務という制度に過度に期待することなく、自身でできる可能な限りの努力は必要になります。企業にとって魅力的な人材になれるかどうかは、健常者も障害者も同じです。

オフィスワークとテレワークでの配慮の違いやコミュニケーションの取り方

オフィスワークでは、社員同士のトラブルや体調の良し悪しなどを視覚情報として得ることができます。一方、テレワークでは視覚情報に頼ることができません。メールやチャットツールにしても「1対1のやり取りは極力控え、管理スタッフを含むグループチャットやメールでやり取りする」というルールを徹底することが第一です。もしオフィスワーク時に取り組んでいなければ、社員とスタッフの 1 on 1 を定期的に実施することも大事です。

また、ZoomやTeamsといったビデオ会議ツールが導入されていれば。朝会(就業開始時)と夕会(就業終了時)の1日2回、全員参加が必須な一斉ミーティングを開始するのもオススメです。

本人の能力の妨げになっている事

何が能力の妨げになっているからは人によって違います。十人十色ではありますが、私が特例子会社の代表をしていたときに感じたことは以下の記事にまとめています。

特例子会社の社長奮闘記(5)
5回目の記事「特例子会社で働く社員の課題抽出」について書きました。人事経験ゼロから取り組んだ発達障害者の雇用と戦力化。本職であるマーケティングの考え方を活かし、特例子会社の代表として取り組んだことを「特例子会社の社長奮闘記」として残していきたいと思います。

雇用管理でうまくいかなかったケースや障害特性が高い困難ケースへの具体的な取り組み。

面接などを通して雇用管理が難しいと感じた場合、そもそも採用を見送る場合が多いです。例えば、企業側で用意している配慮が十分でなかったり、業務特性と持っている能力の相性が悪いと感じた場合です。

定期1on1の声から具体的に反映させたもの(業務)があったのか、もう少し詳細を伺えたら、と思いました。

1 on 1 で「今やっている業務が自分に合わない」や「他の人がやっているあの業務をやってみたい」といった要望はよく耳にしました。”仕事” なのでなんでもかんでも受け入れていたわけではありませんが、きちんと理由を聞いた上で、障害特性上の配慮だと判断したものは積極的に配置転換やアサイン業務の変更をしていました。

具体的にどんな業務が合わなかったのかといえば、それは人それぞれです。発達障害だから合わないということではなく、その人が得意なこと・不得意なこと、またその時の体調などにもよります。その他 1 on 1 については以下の記事にまとめています。

特例子会社の社長が取り組む社員との 定期 1 on 1
特例子会社の代表就任以降ずっと続けている全社員との 1 on 1。その目的や効果、実際の 1 on 1 のエピソードについて記事にしました。ご興味ある方はぜひご覧ください。

ミスマッチだった場合、社長として去り行く障害者にどのようにしてフォローしたのか

退職していく社員へのフォローは、健常者でも障害者でも違いはありません。参考までに退職理由を聞くことはありますが、執拗な慰留コミュニケーションはせず、本人の意思を尊重し、円満に退職できるよう配慮します。私が代表をしていた時は、結婚と出産を理由に退職する社員もおりました。

特例子会社を退職した社員からのスピーチ(全文公開)
特例子会社を退職する社員の最後のスピーチメモを全文公開。同じ障害特性を持つ子供たちや就労に苦労している人たちの希望になるから...という私の意見に共感してもらい、本人からも公開を快くOKしてもらいました。ご興味ある方はぜひご覧ください。

障害者雇用の待遇面。障害の程度と会社への貢献度にもよるでしょうが、障害をもって生まれた人たちは一般の人と平等の待遇を享受することは難しいのでしょうね。運命でしょうが、切ないです。配慮はコストということと受け取ってしまいます。待遇が同等になれば、配慮に嫉妬するという感情は仕方ないことなのでしょうね。

一般就労と同じ待遇を受けれないのは「障害を持っているから」ではなく「障害特性のせいで十分な能力が発揮できないから」だと思います。年功序列賃金が廃止され「Pay for Performance」や「Pay for Role」といった考え方が企業に浸透しており、健常者向けに最適化された労働環境のままでは障害者にとって相性が悪い。

言い換えると、健常者であっても企業に求められる能力がなければ待遇が悪くなります。今後、年齢や国籍、障害の有無に関わらず、誰にとっても快適で使いやすい「オフィスのユニバーサルデザイン」が一般化すれば「配慮 = 特別な投資」ではなくなります。その時、能力のある障害者であれば、一般就労と遜色ない待遇が期待できると思います。

さいごに

後編に続きます…!

発達障害者の障害者雇用の実態と工夫(3) 〜第69回発達支援力アップデートセミナー〜
発達障害者の障害者雇用の実態と工夫について。セミナー後のアンケートにあった「本日の講師から『この話も聞きたい!」と思ったテーマは?…」のご意見・ご質問からいくつかピックアップしコメントをまとめました。後編です。ご興味ある方はぜひご覧ください。